『連合赤軍』を知るためにオススメな本・マンガ・映画
始めに言っておくが僕はそっち系ではない。
でもそっち系の歴史というのは非常に興味深くもある。なんせ僕の世代からすると、歴史の教科書的存在だから。
しかし、『連合赤軍』というか当時の学生運動を知ってからというもの、大いなる疑問があった。
「なぜスーパーエリートが内ゲバで殺し合いまでしたのか?」
である。
そこんところも含めると、やはり学生運動という反体制運動の頂点であり、その終劇でもあった『連合赤軍』を知らずしてなんとする。
ということで、学び知るためのオススメ本・マンガ・映画を紹介しよう!
死のイデオロギーの始まり
アメリカ人の社会学者の視点からインタビューがメインで書かれているので、客観性がある連合赤軍論。
とても怖いのが、究極の日本人論でもあるところが特におすすめのポイント。
この本では、連合赤軍がなぜ悲惨な粛清とあさま山荘事件へ至ったかというのを、組織の歴史を通して書かれているのでとてもわかり易く入門書として最適。
連合赤軍の誕生と時代背景
①学生運動が下火に
まず連合赤軍は1971年から1972年にかけて活動したのだが、これは七〇年安保闘争からの内ゲバ期によって、学生運動自体が下火になり始めた時期。
大衆運動化することに失敗し、また警察の大ローラー作戦により追い詰められていった運動家たちが相次いで脱落し、運動の存続自体が危ぶまれていく。
しかもその大事なときに熾烈な主導権争いが内ゲバ化していく。
逆に言うと、残された運動家たちはどんどん追い詰められ、過激な集団へと先鋭化されていた。
②指導者達の逮捕&国外逃亡
過激化していく無数のセクト(分派)の指導者層が、警察によってどんどん逮捕され長期の拘留を余儀なくされる。
破防法もこの時から。 さらに日本での活動を断念した指導者達は、「明日のジョー(原文ママ)」とかいって北朝鮮や中東に逃げ出してしまう始末。
そして指導者を欠いた二つのセクトがあった。
共産主義者同盟赤軍派(赤軍派)と日本共産党神奈川県委員会(革命左派)である。
③連合赤軍の誕生
赤軍派は大菩薩峠事件やよど号事件で指導者層がほとんどいなくなってしまう。
革命左派も指導者が逮捕されてしまっていた。
ちなみにどちらも思想的には似て非なるものであった。
だがこの2つのセクトには奇妙な利害関係の一致があった。
赤軍派はM作戦(金融機関強盗)によって資金力はあったが、武器がないのが弱点であった。
革命左派は真岡銃砲店襲撃事件などで猟銃を手に入れていたため武器はあったが、資金力がなかった。
この運動の果てに消耗し、指導者を欠いた犯罪者集団が合流し、連合赤軍が誕生することになる。
連合赤軍とは、追い詰められた2つのセクトが打算的に合流した集団であった。
そしてここにその後の悲劇のすべてが集約している。
ここで引用文を見てもらおう。
日本では2つの組織の統合は、常に微妙で不安定な要素をはらむ冒険といえる。
日本の組織は大概が強い縦のつながりで結ばれたヒエラルキーで成り立っており、一方、組織への帰属意識を深めるための儀式やイデオロギーが作られる。
そのような2組の組織の統合は、組織部とそれに従うメンバーのつながりをそっくりそのまま残した形で、2つの指導部間のヒエラルキーを一体化することによって完成する。
それから2組織は新たに作った儀式やイデオロギーのもとにメンバー全員を新組織に組み込むことによって、相互に抱きがちな疑念を払おうとする。
このような構造も戦略も特に日本的とはいえないが、日本社会においてありがちな特徴的な現象といえよう。
イデオロギーを重視する左翼運動が打算的に統合するということは、多くの矛盾を抱えることになる。
この矛盾こそが後の悲劇の最大の原因となる。
彼らは統合後、山を拠点に活動することになる。
それは毛沢東やカストロのゲリラ運動・・・が理想だったらしいが、実際のところは警察によって追い詰められただけであった。
そしてそこで新組織に新たな儀式とイデオロギーが誕生する。
総括と粛清
森恒夫
連合赤軍の誕生は、指導者を失った過激派が打算的に統合した結果だった。
そんな連合赤軍の新たな指導者となったのが赤軍派の森恒夫である。
森恒夫は一度運動から逃走した前歴がある人物であったが、相次ぐ指導者層の脱落によって棚ボタ氏にその地位についた男であった。
森恒夫が新指導者についたのは、その巧みな理論闘争術だった。指導者たちが抜けた今、残されたメンバーで森に理論闘争で打ち勝つものはいなかった。革命左派の事実上のトップであった永田洋子も、森恒夫に追従することになる。
当時の左翼運動とは、エリートによる言葉遊びにも似た難解な理論武装がなければ話にならなかった。結局は内実がないものであったと今日では暴露されたが。
挫折した過去、学歴コンプレックスもあったという森は、連合赤軍が烏合の衆であるという脆弱性と自らの地位が確固たるものではないことに気づいていた。
森はまず連合赤軍の主導権を握るために『総括』という儀式を作り上げた。
これは真の革命戦士になるために、自己批判をさせるものだった。
自己批判は当時の学生運動ではよくありがちなことで、自分の過ちなどを自ら話すことで、運動を改善していこうというものや、一種の吊し上げ等にも使われた。
森はこの自己批判に総括という得意の理論を注入した。
森のいう「総括」とは、「意識高揚法」と「曖昧さ」を駆使したただの権力維持の道具にしか過ぎなかった。
総括=「意識高揚法」と「曖昧さ」
意識高揚法とは、本来は心理療法で行われるもので強い自己形成を目的とする。その前段階で、グループに批判させて自己防衛を取り除かせようとする。
心理療法では、指導者が行き過ぎにならないようブレーキ役となるが、森は『自己形成=真の革命戦士=共産主義化』として集団を操っていく。
曖昧さとは、この総括が全くイデオロギー化すらされていない、誰も正解がわからないものであった。ただあるのは、森の巧みな情報操作だけだった。
学生運動はオウム真理教などと同じように、一種の自己啓発の面が強かったため、意識高揚法による自己形成はすぐに認められた。初めは革命戦士となるべくメンバーは自己批判を行っていくが、その追求がどんどん苛烈になっていき、暴力や真冬の山の中に放置されるようになっていく。メンバーは共産主義化を手助けするために追求を強め、自らも共産主義化、ひいては革命のために総括する。
その中で森は巧みな集団操作により、その地位を確固たるものにしていく。異質なグループの矛盾だらけの統合の中での主導権争いは、こうして最悪の男によって支配される道を選んでしまった。
なぜ暴力がエスカレートしたのか
仲間への暴力は歯止めがかからなくなり、最終的にはアイスピックで滅多刺しにしたり、実行こそされなかったが妊娠中のメンバーの胎児を取り出そうなんて狂気の沙汰まであったとか。
なぜここまで行き過ぎたのか?誰も止めようとはしなかったのか?彼らは異常者ではなく、高学歴のエリート集団だったのに。
その疑問を次の引用文がバシッと答えを出している。
日本の合意方式では、いったん組織の賛成の方向に向かったことに関して個人的な反対意見は差し控えるのが普通である。
そして初め反対だった行動にも、きちんと参加することが要求される。
組織のリーダーは、一人でも気の進まない人間がいないよう目を光らせていなければならない。合意には全員一致が不可欠だからである。
問題が重要であればあるほど、全メンバーが名目上だけでなく心から進んで参加することが大事になる。この全員一致の参加という鉄則により、他のメンバーの総括に参加することは自分自身の総括獲得に欠かすことができない要因であるという方針は、ますます力を持つようになる。
日本社会でよく見られるように、共同参加の意思表明を迫る強大な組織の圧力のもと、この新方針はメンバーをジレンマに追い込んだ。それはイデオロギーを巧みに操る森の才能によって、いっそう力を得ていった。
エスカレートしていく暴力に戸惑いを感じている人間も、弱気な姿勢を少しでも見せることは、自分の非革命性の指標になるのだとすぐに気づいていく。
誰もが共産主義化を勝ち取ることを心から希求していたから、自覚した欠点がそれがどのようなものであろうとも、克服するように努めようと決意していたのである。
したがって不快に感じる暴力にも駆り立てられるように参加していった。それは自分が次のターゲットになるのを恐れてであると同時に、不快だと思う気持ちが怯えから来ていると自覚したからだった。
ここにきて胸にグサッとくる日本人論だ。
「NO」という個人主義のアメリカでは、ここまでの集団形成は行われないという。
この引用文を見て、誰しもが心あたりがあるのではないだろうか?
学校や職場のいじめなんかまさにこれだろう。
我が身可愛さにいじめに手を貸したり、悪質な上司の命令に逆らえなかったり、悪いとわかっているのに皆がやっているから仕方なく手を貸してしまったり・・・
森による「総括」は、真面目に革命を成し遂げようとしているエリート日本人達にとって一番効果的だったのだ。
運動を続けてきたという自負、転向したり脱落していった運動家とは違うというプライド、費やした時間と労力への思い、そこに日本式の合意に基づく集団形成が働くことで、12名もの命が失われた。
閉鎖的な山での逃亡者達によって行われた殺人は、あさま山荘事件後に発覚する。
ちなみに森は逮捕されると、自らを総括し、東京拘置所で首を吊った。享年28歳。
連合赤軍についてのおすすめ本
「死へのイデオロギー」は他にもテルアビブ空港乱射事件の岡本公三のインタビューも書かれており、当時の世相と運動の歴史を知る上ではベストな本だ。
内容も難解さはなく、入門書として最適だと思う。
他には、
革命左派と連合赤軍の幹部であった坂口弘の著作。あさま山荘事件で立てこもったメンバーのリーダー格だ。幹部目線での運動の総括が行われている。けっこう生々しい。
こちらはドキュメンタリー調なので、登場人物や歴史を勉強できる。
これは連合赤軍のいち兵士であった植垣康博(元赤軍派)の述懐の書。こちらは兵士目線で、疑問を感じながらも内ゲバに手を染めていく感覚が非常にリアル。
ちなみに彼も総括対象になっており、その恐怖も綴られている。
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