「マネーショート」を見て、サブプライムローンの闇の深さを知る。

マネー・ショート華麗なる大逆転 (字幕版)

マネー映画は数ある。

だいたいがカネの魔力と効力を存分に味あわせたあと、最後に人間の感情の乱高下に嫌気が差して清貧思想に行き着く。

マネー・ショートは、かのサブプライムローンを扱ったノンフィクション映画である。

経済用語が飛び交う難解な映画ではあるが、それ以上に難解なサブプライムローンを知るには丁度よく、しかもお金のなんたるかを知れるという教養映画でもある。

そして、なんつっても俳優陣が豪華!

今回はマネーショートに学ぶ「お金」とは何ぞや?について。

 

目次 

 

お金=信用

経済の大前提として、お金に価値があるのは、それだけの価値があると万民に認められる「何か」が必要である。

それが「信用」だ。日本国が御墨付で発行しているから、10000円の価値になる。僕が広告の裏に10000円と書いても、それは何の価値も生まない。

投資も大きく捉えれば、これと同じだ。トヨタの株は万民が価値があると思える。

 

サブプライムローンが弾けたのは、その価値を生む「信用」が実は虚構だったからだ。

サブプライムローンは、本来価値の低い投資商品の抱き合わせであり、それを格付け会社に良いように(AAA)判定させていた、まさに信用も価値もないゴミのようなものだった。

だが、この嘘は何十年も賭けて生み出された神話に乗っていた。

日本もバブルが弾けた時、土地神話なるものがあった。「土地は価値が下がらない、上がり続けるものだ」という妄想だ。

こんな根拠はないのに、誰もが信じ切っていることって意外に多い

人はリスクを見たがらないのだ。

劇中で良い例が話されていた。バスケットで立て続けにゴールが入ると、何となく次も入るんじゃないかと思い込んでしまう、あの感じだ。スポーツなら良いように作用するかもしれないが、これが投資=マネーに変わったのがサブプライムローン誕生の一旦であった。

 

しかもこれが儲かる。

儲かるから、銀行や政府もリスクを気にしなくなる。そう簡単に価値が下がるものではないと、自分に都合の良いようにレッテル貼りをした。

大銀行がそんな根拠のない「安全」を言うのだから、一般市民は思考停止してしまう。

結局、リスク管理など成されないまま、信用無き価値だけが雪ダルマ式に巨大になっていく。

劇中では、この誰もが信じている神話の矛盾点にいち早く気づいた男たちによる、「空売り」の戦いが繰り広げられる。

 

 

マネーとモラルのジレンマ

だがこれは、彼らにとってとても難解な道徳的問題でもあった。

多くの投資家や一般市民が、この詐欺的商品であるサブプライムローンに入れ揚げている。もちろんそう遠くない日に突如バブルが弾け、巨大な損失が銀行や投資家だけでなく、一般市民にも降り注ぐのだ。それはアメリカだけでなく世界中に広がる破壊力を持っている巨大な爆弾だ。

彼らはその爆弾が今にも破裂しそうなことに気づいた。爆弾の上にはたくさんの人々がのうのうと胡座をかいている。

 

もし本当に爆弾なら、誰もが避難するよう訴えかけるだろう。

この映画が面白いのは、ここで爆弾の存在を周囲に触れてしまうと、自分たちの儲けが減ってしまうのだ。

彼らの中には、正義感の強い人間もいる。銀行や格付け会社の悪事によって、沢山の人が騙されている惨状を目の当たりにしている。

だがある程度準備ができるまで、これを公には出来ない。金儲けは早い者勝ちである。そしてその勝者が少なければ少ないほど、取り分は大きくなる。

 

主役の一人、倫理観の強いマークは、カネのせいで兄が自殺した過去を持つ。

その彼は、格付け会社にその悪行を避難しに行った際、『偽善者』と罵られ、返す言葉が見当たらなかった。結局、彼の正義感は自分の儲けの範囲内だけに限られていたのだ。

結局、サブプライムローンは弾け、巨大銀行が倒産し、多くの人が職と家を失い、老後の資金や保険が消え、そして命を絶った。

 

そして勝者である彼らにも、苦しみが襲いかかる。

せっかく大金をせしめたのに、後味の悪い勝利になってしまった。

そして自分たちも、あのサブプライムローンを売っていた銀行や証券会社と何も変わらないことに気づく。

 

こう見てみると、今現在世界に存在するマネーが、人間の欲望の総和のような気がしてならない。

欲望は、他者が存在しないと生まれない。自分だけなら、物事を測る尺度がないからだ。自分より良い思いをしている他者を見て嫉妬し、それが欲望を生む。

だから競争になる。勝者と敗者が生まれる。

サブプライムローンは欲望が肥大化し、そんな競争がないという虚構の神話を産んだ結果だった。銀行も格付け会社も儲かり、国民は大きな家に住むことが出来た。だが競争は見えないところで、敗者を隠し続けていた。均衡が崩れ、神話は虚構だったと明るみに出た。そこで初めて、本当の競争が日の目を見る。

この終わりない競争は、文明の発達に大きく寄与してきた。人々が豊かになるためには、欲望という燃料が必要だ。はじめは飢えなくて、安全に暮らせれば良いという程度の欲望だっただろう。それが今や資本主義を生み出し、サブプライムローンを生んだわけだ。

そう考えると、このマネーとモラルのジレンマこそが人間その物のような気がしてならない。

 

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まとめ 

かなり難解な経済映画で、しかも終始情報戦に徹するので、なかなかハードルが高いが、何か人間の原罪のようなものを見せられている気がして、逆に真剣に見入ってしまった。

でも、僕は「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の方が好きだ。

あれこそ人間だぜ!※ちなみにこの映画に俺達のマーゴット・ロビーもカメオってるぜ!

 

お金については、貨幣論という本が面白い。だがどれだけお金を嫌ってみても、宝くじ買っちゃうんだよね。