認知症に対する適切な対処が、仕事で非常に使える。

 

仕事柄、医療分野に携わることも多いので、ちょくちょく数合わせで勉強会に行かされることがある。

今回は地域の医療・介護の連携とかまあそんな話が多かったのだが、意外に興味を惹かれたのが「認知症」についての講演だ。

演者がすごく持って行き方が上手かったのもあるが、今まで認知症に対して大変な誤解をしていたのを痛感するとともに、その対処方法が「これって仕事でも実生活でも使えるじゃん」と思った。

そんなことで認知症に対する適切な対処とそれが意外に使えるよって話をしてみよう。

 

 

認知症の基礎

認知症と言われると「ボケてる」というイメージが強い。

徘徊したり、見当違いなことを言ったり、変なもの食べちゃったり・・・そんな感じだろうか?

 

まず認知症とはなんぞや?というと「脳の病気」だ。

認知症の原因は、加齢やアルツハイマー病や血管障害によって、脳に萎縮が起こることである。

脳は部位ごとにかなり役割が違うので、この萎縮レベルや病気の種別によって症状が全然違うのだが、大きく分けて「中核症状」と「BPSD(行動・心理症状)」がある。

 

中核症状

・記憶障害

・見当識障害(時間や場所がわからなくなる)

・判断力の低下

・実行機能障害(動作の順序や方法がわからなくなる)

・失行(動作がうまくできない)

・失認(五感で感じたものが何なのかわからなくなる)

・失語(うまく喋れない・理解できない)

以上が、中核症状といわれる。

脳の機能障害であるため、治療は難しい。

 

BPSD(行動・心理症状)

粗暴な行為(暴言や暴力)、介護拒否、被害妄想、物盗られ妄想、昼夜逆転、夜間せん妄、徘徊、帰宅願望、失禁・おもらし、異食、物集め(蒐集癖)、不潔行為・弄便、性的な言動、抑うつ状態

認知症の症状の種類 | ~ 介護応援ネット

BPSDは中核症状によって複合的に引き起こされる症状

このBPSDが介護者に負担となり、以前は問題行動とも呼ばれていた。

以前まではこの症状を防ぐために、強い薬を使ったり、部屋に閉じ込めたりしていた。

だがこれは間違った治療だったというのが、最近の考えだという。

 

 

認知症に対する適切な対処

今までは、認知症の人は問題を起こすから危険だと何もさせなかった。

だが今は認知症でも適切な対処や環境を作れば、BPSDを起こさず穏やかに暮らせると言われている。

問題や失敗を起こした時は、何が出来なかったかを評価し、そのためにはどうすればよいかを考えることが大切。

 

例えば、ゴミ箱にオシッコをしてしまうという行動

これは考え方を変えると、オシッコはトイレでするということはわかっている。

ついでに言えばズボンの上げ下ろしやトイレの正しい使い方は出来ている。

ただひとつ、ゴミ箱をトイレだと勘違いしているのだ。

 

これは中核症状をもう一度みてもらうと、「失認」という症状が関与している。

失認は見ているものが何なのかよくわからなくなってしまう症状だ。

トイレにオシッコをすることはわかっているからこそ、トイレの形に似たゴミ箱にオシッコをしてしまったと考えられる。

 

だったらゴミ箱を籠に変えたり、「ゴミ箱」とマジックで書けば良い。

それだけでゴミ箱にオシッコをしてしまうことはなくなったという。

 

そしてここも大事なのだが、この過程をすっ飛ばして「何やってるの!」「これはゴミ箱でしょ!」なんて怒ってしまう・恥をかかせてしまうのは大間違いだ。

本人は脳の機能障害によって勘違いしただけなので、悪いことをしたという自覚はない。

認知症患者からすれば、いきなり怒られ、しかも恥をかかされたことになる。

よく施設や病院で起こる問題なのだが、これは中核症状を見ればわかるように、脳の障害がある人を見慣れない環境に追いやった結果起こった間違いである。

本人はわからない事、新しい環境に適応しようとして失敗したのだ。

ここで怒られると、ストレスによってますます問題行動を起こしてしまう。

要するに問題行動と呼ばれていたのは、病院や施設側の問題だったのだ!というお話。

 

 

認知症に対する適切な対処とは、

①何が原因で出来ないのかを突き止める

原因は順序の間違い?どの動作/工程を勘違いしたのか?環境は良かったか?・・・などなど、全行程と環境を詳細に突き詰めることで、真の原因を探る。

上記のゴミ箱にオシッコ事件も、何ができて何ができていないかを分けるだけでも捉え方が大きく変わってくる。この場合、ゴミ箱以外は汚していないし、衣服もきちんとしていたとなると、やはりゴミ箱に原因があるなという感じだ。

より細かく分類して深く探っていく努力をしなければならない。

 

②すぐに否定しない。

本人は良かれと思って、またはわからないながらも適応しようと思って、失敗してしまった。そこをすぐさま否定して恥をかかせることは、大きな不安とストレスを与えるだけになってしまう。

 

③症状は人によって違う。

脳の機能障害であり、病気や進行具合で十人十色の症状が出る。

だから認知症患者だからと、全て同じ治療をしても意味が無い。

①を徹底して、一人ひとり適切な対処と環境を設定しなければならない。

 

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これって仕事でも使えるんじゃね?

ふんふんと聞いていたが、何だか認知症患者だけじゃなくて、仕事でも実生活でも社会でも、これはかなり有効じゃないかと思った。

 

何かと失敗してしまう部下、ヒステリックなお局様、使えない上司、お小遣いを上げてくれない妻・・・

 

僕もよく条件反射的に反応してしまったり、すぐに物事を決めつけてしまって、失敗することが多い。

そうではなくて、適切な対処はどうすればよいか?を冷静に考えればそんな失敗をしなくても済んだと思う。

要するに「客観的に相手の立場に立つ」ことが大切なのだ。

 

同じ失敗ばかりしてしまう部下も、すべてを理解していないわけではなく全行程の中のたった一つの部分だけを勘違いしているだけかもしれないし、環境にうまく馴染めてないのかもしれないのだ。

 

ひとつの失敗も、それを覚えていないのか、理解していないのか、目的を間違えているのか、他のことと勘違いしているのか・・・などなど深く探っていく。

そして「手順の順番を覚えられなかったのか」となれば、順番を紙に書いてあげたりと対処できる。人によって口頭や見て覚えることよりマニュアルを渡してあげるほうが理解しやすい人もいるし、その逆もいる。

 

だからただ怒るだけではなく、その原因を考えるのがまず上司のする仕事だろう!と日本中の偉い人に言いたい。

認知症だから何もできないと見捨てられるように、簡単にレッテル貼りをして決めつけてしまうことで、多くの人が失敗しているように思う。

 

 

まとめ

認知症のBPSDは、中核症状が複合的に起こることで行動として現れる。

認知症でない僕達から見たら、「何をやってんだ!」となる行動も、認知症患者の立場を考えると原因がわかってくる。

認知症だからとレッテル貼りをして思考停止するのではなく、原因を突き止めようとまず努力することが大切なのだ。

そしてこれは実生活でも非常に使えると思う。

「相手の立場を考える」とは当たり前のことではあるが、意外に難しいことでもある。

 

だから「若者がテレビを見ない」とか「草食男子」とか「鳥越がなぜ落ちたか」とかは、変なレッテル貼りをやめればすぐに原因はわかるのだよ!

という実益を兼ねた話でした(^O^)