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脳内バックパッカー

自宅にいながら映画や本の世界で旅をしよう

Amazonプライムビデオのおすすめ映画「鑑定士と顔のない依頼人」

鑑定士と顔のない依頼人(字幕版)

Amazonプライムで怒涛の映画漬けの日々。

ずっと見ようと思っていたけど後回しになっていた鑑定士と顔のない依頼人を見た。

これは素晴らしい映画だったが、邦題の選択が最悪であり、大いに勘違いされてしまいそうだ。

イタリア映画なので、原題「La migliore offerta」、英題は「The Best Offer」である。

この邦題では、的を射ているようで本質から大きく逸れてしまっている。

海外と「最近の」日本の映画に対する捉え方の違いであろう(配給会社のね)

 

※この映画はネタバレ一切禁止のピサの斜塔のような映画であるため、ここからは映画を見た方以外の立ち入りをお断りいたします(18歳未満でも以上でも見てない人はダメ)

 

 

序盤~中盤の草食魔法使いおじさんの純愛

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今をときめく草食男子の王ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)ご尊顔。

超一流鑑定士という「名」、究極の審美眼という「技」、そしてそこから得た「富」、まさにリア充街道まっしぐらであるはずのヴァージル様が恐れるのは『女』である。

 

ヴァージルは三次元の女性が大の苦手で、自宅の隠し部屋に古今東西より集めし名画の中の女性(二次元)を飾り立ててほくそ笑んでいる。

そう、彼はオタクである。

 

謂わば、オタク界の人間国宝である。

 

 

金持ってるオタクは、握手券付き円盤を何百枚も買わされたり、アニメ一話分のブルーレイを世界一のボッタクリ値段で買わされたりと、資本主義にいいように扱われている。

そんな金持ちオタクから金を巻き上げる劇場型詐欺事件がこの映画の裏ストーリーなのだ。

純朴な男を騙す女と弱肉強食社会をドラマチックに描き出しているので草食系男子去勢映画でもある。

少子化対策担当大臣は今すぐ廃盤にしろ!

 

 

ヴァージルの恋

まずはおっさんのバーチャル恋愛体験(※有料)を見てみよう。

鑑定士であるヴァージルの元へ、奇妙な依頼が舞い込む。

すんごい思わせぶりなタッチの南ちゃんアプローチで、堅物インテリ草食系男子であるヴァージルをジャブで翻弄し始める。

見終わった後ならこう言える。

「ヴァージル!足使え!足!」

だがヴァージルは慣れないアウトサイドとインサイドを巧妙に織り交ぜたステップにより、鋭いジャブをまともに食らっていく。

 

かなりリスキーな依頼者は、3ラウンド辺りから猛烈なインファイトでボディブロー攻めに移る。

「ヴァージル!ロープまで離れろ!」

だが依頼者である妖艶な女の巧みなクリンチによって、ヴァージルは身動きが取れなくなっていく。

 

緩急つけた「女」の使い方。

これに草食系男子に弱い。

え?さっきまで笑ってたのに・・・とか、この前と別人じゃん・・・という、惣流・アスカ・ラングレーさんのような振る舞いに、普段固くガードしている腕が下りていく。

経験不足な4回戦ボーイとパッキャオがやるようなものだから、始めから分が悪いわけだ。

ガードというアイデンティティの守護者がいなくなってしまえば、いつものヴァージルが頑なに守っている自己像やプライドなんか消えてしまう。

 

草食男子殺し

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※ウキウキが止まらないヴァージル

依頼者のうまかった所は、

①きっかけが、仕事上の正当な出会い

②普段ヴァージルが絶対受けないような扱いで翻弄

③自己投影させるきっかけをバラ撒く

③「彼女を救えるのは自分しかいない」と勘違いさせる演出

この4つで草食系男子の心を揺さぶっていく。

 

草食系男子というかモテない僕のような人間は、「あのぶどうは酸っぱいや」でなんとか青春時代を切り抜けてきたのだ。

スポーツや勉強に打ち込んだり、第3の道であるオタク道に邁進したりするのも、この

「あのぶどうは酸っぱいや」である。

悲しいかな人間はおサルさん時代から何も変わっておらず、自分の子孫を残すことしか考えていない。

要するにモテなければならないという原罪を背負っている。

 

だからその原罪からの逃避が酷ければ酷いほど、ヴァージルのような孤独へと陥る。

単純に恋愛だけではないが、多感な青春時代はそこなんだよなあ~と桐島、部活やめるってよで見たもんね。

 

この4つの技を駆使することにより、ヴァージルの「構え」を解き、柔らかい懐へ潜り込む依頼者たち。

①きっかけという一番難しいハードルをやすやすと越え、②ヴァージルの構えを相手にせず、③同情と親近感を誘い、④物語の主人公に仕立てあげる。

かくして難攻不落に見えたヴァージルの心は意図も簡単に開城させられてしまった。

 

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劇場型詐欺の手口

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依頼者はこの麗しの令嬢クレア様である。

クレア様、管理人、ロバートとその一味、そして黒幕は友人であったビリーというのが、この劇場型詐欺集団の犯人たちである。

 

その手口は、

①ヴァージルがクレアに恋をするよう仕向ける。

ここは上記の技の数々を駆使する。そしてヴァージルの友人でもあったロバートたちが相談に乗るようにして、外部から誘導する。

強面のヴァージルが恋話をデレデレと話し出すあたりなんか、思い出すと悲しくなる。

 

②ヴァージルの恋を演出する。

爺さんの遅い春を、電通並みのプロデュースで少女漫画みたいなストーリーにしていく。流行りの服を着させたり、家出したり、暴漢に襲われたり・・・

ヴァージルはこの大転換のドラマによって翻弄されていく。

 

③餌で繋ぎ止めておく。

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餌とはクレアの家に転がっている部品である。

この部品はオートマタと呼ばれるからくり人形のものだ。

オートマタはマニアにはたまらない一品らしく、プレミア価格が付く。

もちろん鑑定士であるヴァージルが見逃すわけはない。

クレアの家に向かわせ、クレアに近づけるための最初の餌としてこのオートマタを利用する。そしてこのオートマタを組み立てれるのはロバートしかいない。

つまりオートマタの部品は餌というだけでなく、クレアとロバートの間を行き来させるという目的もある。

 

そしてこのオートマタの部品を盗みとるわけだから罪の意識も植え付けることができるし、オートマタを完成させるという口実を自分に使えばクレアに会いに行きやすくなる。

ロバートとの罪の共謀という関係と、クレアへの恋という関係がこの部品を通して構築される。ヴァージルはこの二つの関係の中に閉じ込められる。

ヴァージルは、初めはオートマタのことばかり話していたのに、次第にオートマタではなくクレアのことばかり気になっていく過程が見て取れるようになる。

犯人たちはこの部品を巧妙に使うことにより、ヴァージルを繋ぎ止めつつクレアのもとに向かわせ、ヴァージルの心理状態を読み取るのであった。

 

 

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結果としてクレアにゾッコンとなったヴァージルは、洗いざらいをクレアに披露した。

彼はクレアのために最後のオークションを行う。

そして帰宅するとクレアはいない。ロバートたちも音信不通。

そしてそして彼が人生を賭けたコレクションである「二次元彼女たち」が全て盗み出されていた。

そしてそしてそして、もぬけの殻となった部屋には一枚の絵が。クレアの母が描かれているといわれた絵の裏には、「親愛と感謝をこめて」とビリーの署名があった。

 

ここで劇場型詐欺の真犯人が友人ビリー(ドナルド・サザーランド)であったことが判明する

 

 

ビリーの復讐

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ビリーは絵描きを目指していたが、作品をヴァージルに否定され、その道を諦めてしまう。

ビリーは、ヴァージルが「偽物と鑑定した本物」を競り落とすような汚い仕事をやらされていた。

ビリーはヴァージルに言われるがままの人生だったのだ。

だからビリーはヴァージルのおかげで富を得ていたが、彼への憎しみを抱え続けていた。

そしてこの劇場型詐欺を行ったのである。

 

結果、ヴァージルは愛すべき「二次元彼女たち」を奪われただけでなく、初めて愛した三次元彼女が偽りであったことを知る。

ヴァージルは精神病院に入院するほど落ち込み、廃人のようになってしまう。

 

ビリーの復讐はヴァージルから受けた恥辱を味わわせることであり、それが劇場型詐欺になったのだと思う。

これに関連するのが、

①自分の才能を否定され、一番大切だった絵の道を諦めさせられた→ヴァージルの大切な「二次元彼女たち」を奪う。

②汚い仕事をやらされていた→オートマタの部品を盗む。

である。

 

そして復讐の主目的は、「ヴァージルに奪われた自分の人生を奪い返す」ことだ。

それがクレアであった。

結局、ヴァージルは鑑定士でありながら、鑑定を見誤ったのである。

「贋作の中にも真実がある」というヴァージルの言葉への意趣返しでもあった。

 

ヴァージルは偽物を見抜けなかったために、「人生をかけて集めてきた絵画」と「人生を賭けても良いと思わせたクレアへの思い」を奪い取られたのだ。

 

これはビリーによる「ヴァージルの鑑定士としての能力=人生」の否定であった。

鑑定士と顔のない依頼人(字幕版)
 

 

 

まとめ

これは一つの捉え方であって、もちろん正解ではない。

さらにクレアが本当にヴァージルのことを愛しているんじゃないかと思われる描写もある。

ラストシーンは、ヴァージルがクレアが唯一語っていた場所に向かい、まるでクレアを待っているような姿で終わる。

 

ちょいと突っ込みどころが多い(あまりにも劇場型すぎて流石に気づくやろ!ってシーンが多々ある)が、ヴァージルという虚像が崩壊していくさまの描写はジェフリー・ラッシュの名演もあって素晴らしかった。

まさかニュー・シネマ・パラダイスの監督がこんな映画作ってるのも驚きであり、ジェフリー・ラッシュがパイレーツ・オブ・カリビアンのあの船長だったり、ドナルド・サザーランドが「24」の主役のパパだったりするのも面白かったりする。

 

これからの時代は「オレオレ詐欺」ならぬ「オレオレ劇場型詐欺」でヴァージルみたいな老人が増えそうな気もする。